Artworks(作品)

個展(2007年) 個展(2005年)

IDEA SENSE EXPRESSION展(2007年〜2005年)

IDEA SENSE EXPRESSION展(2004年) 

IDEA SENSE EXPRESSION展(2003年

EYE COORDINATESII  新・眼の座標II  宮下圭介展に寄せて

sign on sign
2007 162×130 
oil and acrylic on canvas

 

絵画において、作画上の絵具の層というのは、いったいどのような意味を持っているのだろうか?
 
私は美術史家ではないから確かなことは言えないが、近代以前までは例えば制作初期の段階の絵具の層は、最終的に完成された画面のためのプロセスに過ぎなかった。画家の豊富な経験によって、下地の層と仕上がりの層とがみごとに秩序付けられていたのである。

 

 しかし、印象派の頃からその秩序が微妙に狂いだす。印象派の頃から、というのは飽くまで図式的な線引きに過ぎないが、確かに絵具という物質が、それまでとは別な意味を持ち始めたのだ。
  そして、ジャクソン・ポロックによって絵画制作のプロセスそのものが絵具の物質感と共に生な状態で表現されることになった。このことによって、画家はあらゆる伝統から自由になったかのように見えるが、それは絵画制作のプロセスから絵具の層に至るまで、すべてを表現者である画家が責任を持つ、ということでもある。しかし、どれほどの表現者がそのことに自覚的であるだろうか?

 今回の展覧会の、宮下自身によるコメントを見ると、宮下がいかにこの点について自覚的であるのかがよくわかる。いや、コメントを見るまでもなく、作品そのものが宮下の思考を能弁に語っている。

sign on sign
2007 162×130 
oil and acrylic on canvas

  乾燥の早いアクリル絵具の層、その上に重ねられた油絵具の層、宮下の作品においては制作過程がシステマチックである。宮下は表現者に与えられた自由が、行き当たりばったりの制作過程とは異なることを知っている。自分の絵画にとって過不足のないプロセスで表現することが、画家にとって最大の自由である。それは近代以前の画家が見出した制作過程の秩序にも似ているが、彼らが最終的にそれを図像の影に隠蔽しようとしたのに対し、宮下はその過程をいかに可視的なものにするのか、に腐心する。制作過程における絵具の各層の調和、不調和をそのまま見えるものとし、最終的にそれらを一望のものとして表現するのである。

 現代絵画において、結果的に絵具の層が見えてしまう、ということはある。その見え方が不安定であれば、その表現者の力量もまた不安定である。それは伝統的な画家にとってのデッサン力のようなものであるのかもしれない。宮下は、その絵具の各層に見える形状を「Sign」として位置づけ、その見え方を観測者のように推し量ろうとする。「Sign」とは、明確な文字でも記号でもない。観測するための「しるし」である。「Sign」が残されていることによって、私たちは宮下のプロセスをより明確に見ることができる。絵具の各層の「Sign」がどのような調和をもたらしているのか、あるいはどのような不協和音を奏でているのか、それらの相互の距離感は心地よいのか、あるいは何か抵抗感を感じさせるのか、結局のところ、それらは私たちの視覚の中で感知され、統合される。

 

sign on sign
2007 195×158 
oil and acrylic on canvas

  「sign」と言えば、ドローイングの中に文字や記号や象徴的な形状を混在させるCyTwomblyのような作品を想起する観者もいるかもしれないが、宮下の場合はそのような背後のイメージを考える必要はない。(もちろん、考えても構わない。)また、それならば幾何学的な抽象絵画のように、表層の絵具の下に透けて見える四角い形体の構成的なバランスを吟味しなければ、と思う観者もいるかもしれないが、それも必要ない。そのような構成的なバランスが画面の表面を横へ横へと滑っていく時間の中にあるのだとするならば、宮下の絵画は画面から垂直の方向へも時間軸を持った作品だと言っていいだろう。その両方向の時間に視覚をゆだねるとき、観者は宮下の作品が表現する豊かな次元に気がつくはずだ。

 このように、宮下が漕ぎ出した絵画の新たな次元は、一方では表現の困難な地平でもある。絵具の各層がときにぎこちなく係わり合い、何かが突出して見えてしまうことも少なくない。しかし調和よりも矛盾を、平穏よりも出来事を仕掛けるのが宮下のやり方である。何かが突出して見えてしまう、などと感じるときには、こちらの感覚がなまぬるい調和を求めているのかもしれない。

  それにしても、デジタルな画像が飛び交う現代において、宮下の作品は平面作品でありながらその本物との出会いを頑なに要求しているようで面白い。

例えば宮下の絵画の垂直方向への時間軸は、どうしても生の作品でなくては見ることが出来ない。

sign on sign
2007 195×158 
oil and acrylic on canvas

宮下自身がコメントしている「距離の中で知覚の現象として現れる、ある層」とか、「不安定だが興味深い領域」というのもまた、本物の作品との出会いによってのみ現れる「層」、「領域」である。

  だから、宮下作品との出会いは、いつもかけがえのない時間になる。
 

(2007.6 石村実)

 

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